知ってるよ、好きだから
 
 
 
 
 
 

 

 
 
 
ふと、総司は思った。あ、そうだ、神谷さんを甘味処に誘ってみようと。
そして、総司は足取りも軽くセイを探すべく屯所内を歩き回る。
しかし、いくら探し回ってもセイは見当たらない。
(・・・どこっちゃったんですかね、神谷さん。)
と思いながら、辺りを見渡す。
すると、土方とセイが一緒に歩いているのを見かける。
その姿に、総司は何だ、土方さんと一緒だったのかと思い、その場を去った。
 

「沖田先生?こんなところで寝ると、風邪ひきますよ?」
 
気が付くと、セイが顔を覗き込んでいた。
いつの間にか眠っていたらしい。
日はしっかり落ちて、外からは鈴虫の啼く声が聞こえる。
総司は体を起こすと、
 
「神谷さん、縁側に座って鈴虫の声を聞きませんか?」
 
総司の誘いにセイは笑顔ではい、と答えた。
 
 
京の夏は暑い。
だが、この熱い夜に鈴虫の啼き声を聞きながら団扇を仰ぎ涼むのは好きだ。
 
「総司に神谷じゃないか。何してんだ、そんなところで?」
 
聞きなれた声に総司は声がした方に目を向ける。
そこには、腕を組みながら土方が立っていた。
ふと、セイの方に目を向けた
瞬間、総司は胸が高鳴るのを感じる。
セイは頬を染めていて、心なしか瞳を潤んでいるように見える。
その艶っぽいさと言ったら、言葉では言い合わらすことが出来ない。
そんな表情で土方を見詰めており、さしずめ、その様子は恋する女子のようで総司は思わず苦笑する。
(初々しくて、可愛らしいですけど、そんな表情で見つめたら、土方さんに女子だって気付かれちゃいますよ。)
と、視線を空に移した。
 
「それにしても、今夜は暑いですねぇ。私、ちょっと、水飲みに行ってきます。ついでに厠も。」
 
そう言って総司は立ち上がり、厨房に向けて歩き出した。
胸に一抹の痛みを感じながら。

 

 

 

 

(好きだから、気づいちゃうんですよね。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お題提供:確かに恋だった

切ない恋10題

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