小弛む 2
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
4.


何故、こんな事になったのだろうと総司は頭を捻った。
総司は打たれた頬を擦りながらとぼとぼと歩きだす。
先日、祐馬からお気に入りの簪が壊れたと聞いて、次の日、早速簪を買い、セイの元へ行き、甘味でも食べながら簪を渡そうと思っていた。
そこまではよかった。
簪を渡したら、すごく喜んでくれたし、心の底から買ってよかったと思って総司も嬉しかった。
これで円満かと思えば、さにあらず。
次からが問題だった。



「ありがとうございます、沖田先生。」

無邪気な笑顔を向けてくるセイに総司は可愛いなと思いつつ、微笑み返した。
いいんですよ。と総司は言うと、セイの頭を撫でた。
その総司の行動にセイは鼓動が高鳴るのを感じる。
セイは、子供扱いはお止め下さい!と総司の手を払う。
その様子に総司は喉を鳴らしながら笑う。

「やっぱり、可愛いな。おセイさんは。」

途端、セイは顔を耳まで赤くさせ、顔を逸らす。
そんな意地っ張りな所まで総司にとっては堪らなく愛おしいと思えた。
ふとセイは何かを思い出したように、再び顔を総司の方に向けて、手を叩いた。

「そうだ、今度、私も何かお返しなくては!」

セイの口からそんな事が発せられたものだから、総司は咄嗟に首を横に振った。

「そんなのいいですよ!これはほんの気持ちなんですから。」

途端、セイの眉間に深く皺が寄せられる。

「よくありません!先生は私たち家族の恩人なんですから!」

それからは、両者一歩も譲らず、攻防戦が始まる。
総司も、なかなかの頑固者だが、セイも負けず劣らず頑固者である。
お互い、こうと決めたら、決して譲らない。
そんな二人がこのような攻防戦を繰り広げた行く末は火を見るよりあきらかである。

「・・・前々から思ってましたけど、沖田先生ってほんっと〜に頑固者ですよね!」

「なっ!よく言いますよ!貴女だって、頑固者の癖して!その上、気は強くて。少しは、町娘みたいにしおらしくなったらどうなんです?」

「すみませんね、しおらしくなくて!この性格は生まれつきです!先生こそ、ヒラメ顔な癖して!」

「今、ヒラメ顔は関係ないでしょ!」

まさに売り言葉に買い言葉。
二人とも、周りの視線など、気にも止めず、ここが甘味処だとは既に頭に入っていなだろう。
最早、話が脱線し過ぎて二人とも何が何やら訳が分からなくなっている。
こうなったら、もう、誰にも止められない。

「そも!何故、私が善意でお返しがしたと言っているのに、そんなにかたくなに拒むのですか!」



「だって、妹同然の貴女にお返しなんて貰えるわけないでしょう!」



瞬間、セイは瞠目する。
この総司の発言が決定打となり、セイは思い切り総司の頬を引っ叩くと、足取りを荒々しくさせ、その場を後にした。
突然の事で何が起こったか未だに理解できていない総司は、ただ、打たれた頬を抑えながら、セイが去った方向を眺めていた。
そして、我に返ると、何なんですよー!叫んだ。




そして、冒頭に至る。
ふと、土手の下を見ると、子供が遊んでいた。
その姿に総司はふっと笑うと、少し土手を下って、座った。
遊んでいる子供たちを見ると、何故か、セイを思い出させる。
ひとつも似ていないのに、思い起こさせるのは、どちらも危なっかしく、無邪気で、純粋だからだろう。
怒らせたいわけじゃないのに、私も少し、意固地になり過ぎましたかね。と総司は思いながら、土手の草を取る。
そして、先程のセイのふくれっ面を思い出し、総司はくつくつと笑うと、立ち上がり、目の前で指を絡めると、それを、勢いよく上に持ち上げた。
さて、そろそろ、帰りますか。と呟いて、帰路についた。



屯所へ戻ると、門前でセイが周りの様子を伺ながら立っていた。
瞬間、総司は胸が締め付けられるような気持ちになる。
総司は居ても立ってもいられず、手を振りながら走ってセイの元へ行った。




5.


日もすっかり落ちた頃、土方はふと辺りを見渡し、漸く、居室全体が暗くなったことに気付く。
字が書きにくい訳だ。と思いながら、小姓の市川鉄之助を呼んだ。

「明かりを頼む。」

鉄之助はその言葉に分りました。とだけ答えると、火打ち石を持ってきて角行灯に明かりを灯す。
すると、居室は途端に明るくなる。
土方は鉄之助にすまないな。とだけ言うと書き物の続きをす為に机に向かう。
鉄之助は御用の際は、また、お呼び下さい。と言って居室を出ると、失礼します。と言いながら障子を閉めた。
それから、小半時の後、

「土方副長、沖田です。」

その声に土方は筆を止め、障子の方を見ると、入れと言った。
すると、障子がゆっくりと開いて、総司が居室に入ってくる。

「報告だろう、聞く。」

その言葉に総司は微笑むと、

「町の様子に、以上はありませんでした。」

「ふん、それなら結構だ。」

そう言うと、土方は再び、机に向き合った。
すると、突然、障子が開き、二人とも同時にそちらへ目をやる。
そこには、近藤が満遍の笑みで菓子を片手に持って入ってきた。
その菓子を見た途端、総司は目をこれでもかと言うくらい輝かせる。
土方はその総司の様子をげんなりとして見ていた。

「近藤先生!どうしたんです?この菓子は!」

「ははは!八木さんに貰ったのさ。帰ったら、総司に食わせてやろうと思ってな。」

途端、総司は近藤に勢いよく抱きつく。
近藤はそれを、難なく受け止めた。

「本当に総司は、菓子が好きだな。」

「はい!先生と同じくらい好きです!」

「・・・それは、喜んでいいのやら悪いのやら。」

「そこは喜ぶべきところです!私は菓子がないと生きてはいけませんからね!即ち。近藤先生もご同様ですよ!先生がいないと私は生きていけません!」

総司の言葉に土方はケッと言うと、止めていた筆を再開した。
近藤は笑いながら、大刀を抜くと刀掛けに大刀を置いた。
そして、胡坐を掻きながら座った。

「ところで、総司。噂で聞いたんだが、お前、富永君の妹さんと最近懇意しているそうじゃないか。」

その言葉に総司は、あぁ、おセイさんの事ですね。と微笑みながら言った。

「えぇ、仲良くさせてもらってますよ。今ではよく甘味処も一緒に行ったりしてるんです。」


と嬉しそうに言うものだから、土方と近藤は瞠目して総司を見る。
その視線に総司は焦る。

「え、どうしたんですか?二人とも、私、何か悪い事でも言いましたか?」

総司の言葉に近藤は我に返り、いや、何でもない。と言った。

「さぞかし、綺麗な人なんだろうな。」

その言葉に、総司は首を傾げる。

「んー・・・綺麗は綺麗なんですけど、まだ、子供みたいなところがあって・・・先日なんて・・・」

「餓鬼のお前に子供だと言われたら、終いだな。」

その言葉に総司は土方さん酷いです!と憤慨する。
土方と総司の掛け合いに近藤はただ笑って聞いていた。



かくして、昔馴染み、三人の雑談は終了し、いつの間にか総司は近藤の膝の上で眠っていた。
その寝顔に近藤は喉を鳴らしながら笑う。

「・・・昔を思い出すな。」

そう言いながら、近藤は総司に自分の羽織を掛けてやる。
土方はそうだな。と言って、膝に肘を付いて、手に顔を乗せた。

「それより、こいつが、女と普通に話せるようになってたなんてな。驚きだぜ。」

その言葉に近藤は少し笑う。
本当にそうだ。
いつの間にか、成長してるんだな。と慈しむ様な目で総司を見た。
土方は、不敵な笑みを浮かべながら、総司のでこに指を持っていき、この野郎と言いながら、でこピンをする。
そのでこピンに、総司はしかめ面をするが、起きる気配はない。
その様子に二人は顔を見て笑いあった。

「おセイさんが総司に新しい風を吹かしてくれるといいけどな。」

と近藤は外を眺めながら、密かに呟いた。




6.


時刻は四つ。
こんな時間に調理場の方から何やら物音がするので、玄庵は足を運んだ。
大方、セイだろうと思いながら行くと、案の定、セイが調理場に立っていた。

「・・・セイ?何をしているんだい?こんな時間に。」

玄庵はしょうがないなと溜息をつきながら、調理場へ入る。
途端、甘い香りが玄庵の鼻に纏わりつく。

「あ、父上。今、柏餅を作ってるんです。」

「柏餅?何故?」

その問いかけにセイはふふっと笑うと、

「お返しの品です。」

とだけ答えた。
その言葉に玄庵は微笑すると、遅くならないようにな。と言って、その場を去った。
自室へ戻る途中、祐馬と鉢合わせて、玄庵は微笑みながらお帰りと言った。
祐馬はただいま帰りましたと、言って頭を下げた。
そう言えば。と祐馬は頭を上げる。

「先程から甘い香りが漂ってますが、これは?」

祐馬の言葉に玄庵はあぁ。と笑う。

「今、セイが柏餅を作ってるんだよ。」

「柏餅?何故?」

「何でも、お返しの品だとか。」

その言葉を聞いて、祐馬は顎に手を当てて考える。
そして、あぁ、そういう事か。と言って、笑った。
祐馬のその様子に、玄庵は首を傾げる。

「父上は少し、寂しい思いをするかもしれませんよ。」

と微笑みながら言って、祐馬は調理場の方へ足を運ぶ。
残された玄庵は、一体何なのだろう?と腕を組み、首を傾げた。



「セイ。」

突然の背後からの声掛けにセイは肩を大きく震わせる。
振り返ると、そこには、大好きな祐馬がいた。
途端、セイは表情を明るくさせ、祐馬に近寄る。

「兄上!お帰りなさいませ!」

「あぁ、ただいま。」

と言って、祐馬はセイの頭を撫でる。

「セイ、柏餅を作ってるんだって?」

「はい!沖田先生に!」

やはりかと、祐馬は苦笑する。

「そうか、それは、甘い物好きの沖田さんは喜ぶだろうな。」

途端、セイの表情は曇り、そうでしょうか。と俯く。
祐馬はらしくないなと思いながら、セイの顔を覗き込む。

「どうしてだい?セイの手作りならばあの人だって喜んで受け取るだろう?」

すると、セイは顔を真っ赤にさせ、

「・・・迷惑じゃないでしょうか。」

その言葉に祐馬は微笑み、

「迷惑なわけないじゃないか。大丈夫だ。きっと。」

そう言うと、セイは満遍の笑みを向け、はい!と言った。
元気出たぞ!と言いながら再び台所に向き合うセイに、祐馬は一抹の寂しさを感じながら、料理場を後にした。
どうやら、自分も妹離れ出来ていないらしいと、笑う。
自分がこんなに寂しいんだ。父上はもっと寂しがるだろう。と思いながら自室へと入った。






その次の日、屯所にセイが持ってきた柏餅を総司は喜んで受け取り、二人で食べたとか。
その様子をたまたま見かけた斉藤は青いな。思いながら刀の手入れをした。























 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
言い訳
ブログにアップしたものをこっそりこちらにもヽ(゜∀゜)ノ
 
 

 

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