注)性描写含みます。苦手な方は回れ右。それでもいいという方は、下にスクロールしてください。
闇の中に咲く花
−後篇−
セイは縁側に座り、空を眺めていた。
乾いた風が吹く。
季節は秋に差し掛かろうとしていた。
あれだけ、緑が生い茂っていた木々の葉は後、数日もすれば枯葉へと姿を変えるだろう。
それが少し悲しかったりする。
昔から、季節の変わり目は寂しい気分になる。
ただ、無情に通り過ぎる季節を引き止めたかっただけかもしれい。
理由は分らない。ただ、漠然と時が過ぎて行くのを実感して何とも言えない気持ちになる。
ふと、セイの目に撫子の花が目に止まった。
セイは、下駄を履き庭に出る。
そっとしゃがみ込んで、撫子を摘み取った。
その色鮮やかな紫色にセイは何故か心惹かれる。
ふとセイの脳裏に祐馬と玄庵の顔が過る。
セイはゆっくり立ち上がると、その場を後にした。
そして、かつて、我が家があった頂妙寺まで来ていた。
今ではすっかり空き地になっている我が家にセイはただ黙ってその場にその場に立ち尽くす。
少し前に来たと言うのに、何故か随分、懐かしい気持ちになる。
セイはその景色を周りを見渡しながらゆっくり歩く。
せっかく、来たのだから祐馬と玄庵に会っていこうと、二人が眠る場所へと足を運ぶ。
「・・・父上、兄上、また来てしまいました。」
そう言って、セイは目を閉じ、手を合わせ、頭を少し下げた。
不思議なものだなとセイは思う。
以前来たときは、総司の事が好きで仕方がなく半分自暴自棄になっており、死のうとまで考えていたのに、今ではどうだ。
自分の気持ちが全く分からない。
"私も幸せになりたんです。神谷さん。貴女と共に。"
それを聞いて、喜びよりもなによりも、言いようもない恐怖が込み上げて来て、思わず総司の腕を振り払って逃げ出していた。
以前の自分なら迷わず、総司の胸に顔を埋めただろう。
だが、今のセイには、それが出来ない。
また、あの手を取って再び傷付くのが何よりも怖い。
ゆっくり、目を開けるとセイは溜息を吐いた。
もう、期待する事に疲れた。
今まで、総司の元を離れなかったのは、いつか、必ず以前のような優しかった総司に戻ってくれると信じて来たからである。
それに、最後は必ず優しく包み込んでくれた。
それが心地よくて、抱き締められる度に本当にこの人には私が必要なのだと実感していた。
だからこそ、どんな仕打ちにも耐えてきた。総司の事を信じて来たからこそ。
それが、突然、自分で答えを見つけて、悟った様な笑顔。
いきなり、手のひらを返したような態度を見て、どうして信用できるだろうか。
セイは完全に沖田総司と言う人間が分らなくなり、自分の気持ちを見失っていた。
そして、完全にこの気持ちに蓋をしようと決心したのだった。
確かに、あの日以来、打たれることも無体を強いられることも無くなった。
それどころか、指一本触れてこなくなった。
何をするにしても、まるで、腫物を扱うような気遣い。
それが逆に、セイの恐怖心を煽る。
また、いつ以前のように打たれるか分らない恐怖からセイの神経は擦り切れるばかり。
もう、打たれながらあの冷めた目で見下されるのは耐えられない。
今まで、何度期待しても何度裏切られただろう。
セイは自嘲気味に嗤うと、
「父上、兄上…セイはもう、疲れました。」
と呟いてセイは墓石に水を掛けた途端、
「神谷さん。」
背後から聞こえて来た声にセイは瞠目しながら振り返った。
そこには、血相を変えて汗を大量に掻いている総司の姿があった。
その姿に昔の総司の姿と重なる。
だが、それはすぐに打ち消されて、セイは自分でも血の気が引くのが分った。
固まって動かなくなったセイを尻目に総司はセイの腕を取ると、自分の方へと抱き寄せた。
途端、セイは正気に戻り、慌てて総司の腕を振り払い、走り去ろうとするのを総司はセイの手首を掴んで止めた。
セイは、顔を背けたまま、
「・・・離してください。」
蚊の鳴くような声で呟やき体を震わせた。
だが、総司の腕を掴む力は強くなる。
その力強さにセイの震えは一層強くなる。
「いいえ、離しません。」
有無を言わさない、言葉掛けにセイは振り返る。
すると、総司はセイの頬にそっと触れ、微笑みかける。
その笑顔にセイは心臓は大きく脈を打つ。
セイは思わず、顔を背けた。
「・・・心配しました。帰ったら貴女の姿が見当たらなかったので。」
「・・・止めてください。そのような事を言うのは。」
「え?」
「どうぞ、私の事は放っておいてくださって構いません。先生は先生の道を歩んでください。」
途端、総司の顔が悲痛に歪む。
その表情にセイは胸の痛みを感じる。
何故、痛みを感じるのかとセイは己に問いかける。
総司への気持ちに蓋をすると決心したにも関わらず、傷つけたかもしれないと思ったら、やはり、罪悪感に苛まれる。
そして、どうしたってこの想い消し去る事は出来なのだと悟る。
「神谷さん・・・。」
「・・・もう、私を解放してください。」
思わず口に出た言葉は自分でも驚くほど冷たい声が出た。
何故か、この上なく、総司が憎かった。
否、それでも、ここまで総司に気持ちがあった自分が憎かった。
セイは、下を向くと下唇を思い切り噛み、爪が白くなるほど着物を強く握り、体を震わせる。
これ以上総司への想いは募らせたくはなかった。
ただ、愚かで憐れな自分にはなりたくなかった。
今ここで、許してしまったら一生自分を憎んでしまいそうだった。
総司は、掴んでいたセイの手首を離すと、そうですよね。と微笑んで踵を返して、その場を去った。
セイは、総司の後姿を暫く見据えると、自分は総司とは反対方向へ歩いて行った。
総司は、少しだけ、後ろの様子を伺う。
そして、セイがいないことを確認した途端、口に手を当てて、咳き込んだ。
暫時、咳き込みは続く。
思わず、地面に座り込んで手を付いた。
解放してくださいと言うセイの言葉が脳裏を過る。
確かに、手離した方がいいのかもしれないと手に着いた血を見ながら思った。
今まで、手離してやることが最善だと思いながらも、手離すことが出来ずにここまで来た。
だが、その時がついに来たのだと総司は覚悟する。
血を吐いたのは今回が初めてだなとぼんやり思いながら総司はゆっくりと立ち上がり、何事も無かったかのように歩き出した。
セイに共に幸せになりたいと言った日から、よもやとは思ってはいたが、血を吐いたと言う事はそういう事なのだろう。
逆に存外、冷静に受け止められている自分に驚く。
それとも、こうなる事を前から予想していたのか。
これが、自分への罪だと言うのなら、甘んじてそれを受けよう。
こんな時に、否、こんな時だからこそ、総司の頭の中は冷静に回る。
「・・・皮肉なものだな。答えが見つかった途端、これか。」
と総司は自嘲気味に嗤う。
共に幸せになりたいと言いながらも、将来のない自分より、セイにはもっと似合いの人がいる筈だと、存外本気で思っている。
不思議と、セイが他の男の横で幸せそうに笑っている所を想像しても悋気は起きない。
いっそそんな自分の潔さに心地よさを感じながら、ふと、空を仰ぎ見ると、今にも泣きだしそうな様子だったので、歩調を速めた。
それから、数日。
セイは、穏やかに過ごしていた。
あの日以来、総司はこの休息所に帰ってくることはなかった。
気がかりでないと言えば嘘になるが、此方から出向くわけにもいくまい。
ましてや、仮にも夫たる総司の職場に妻の自分が赴くなど、そのような見っともない事をセイはしたくなかった。
例えそれが、昔、慣れ親しんだ場所だとしてでもだ。
そう思いながら、セイは内玄関の方に足を運んだ。
すると、そこには青い顔をした、かつての同志、一番隊の隊士が立っていた。
「・・・どうなさったんですか?」
あまりにも青い顔に思わず、セイは近寄り、肩に手を置いた。
すると、隊士は体を振るわせながらも、セイの目を見据えた。
「落ち着いて聞いてください。先生が、沖田先生が・・・」
瞬間、セイは我を忘れて休息所を飛び出していった。
無我夢中で走っている最中、何度こけそうなったか分らない。
そんな中、何人の人とぶつかっただろう。
そんな事いちいち憶えてはいない。
ただ、診療所までの道のりがやけに長いと感じていた。
足が重く、既に息は切れている。
心臓の音がやけに煩く、煩わしい。
兎に角、冷静を欠いており、只管に診療所を目指す。
それでも、心の中には冷静な自分がいて、どうして、私はこんなに一
生懸命なんだろう。と思っている自分がいた。
゛・・・大量に吐血されて・・・゛
それだけ聞けば、大体の想像はついた。
ここ数日、総司が休息所へ帰ってこなかったそういう事だったのかとセイは次から次へ流れ出てくる涙を拭いながら走った。
「・・・嘘つき・・・沖田先生の嘘つき・・・!」
もう、今までの事などすっかりどうでもよくなっていた。
一刻も早く、総司の元へ行きたかった。
そして、どう抗ってもあの人の事は嫌いにはなれないのだ。と胸に刻む。
「・・・沖田先生!」
セイがお勢いよく、障子を開けると、土方と総司が瞠目しながら此方を見た。
そして、総司に近寄ると、思い切り、平手打ちをした。
何度も何度も、左右交互に。
総司はその平手打ちを黙って受けていた。
その様子に土方は黙って部屋を出ていく。
やがて、気が済んだのか、セイは総司の胸に顔を埋めて泣いた。
「こんな仕打ち、今までで一番酷過ぎます!」
最早、己の感情を制御出来ないセイは、気持ちを思うがままに吐露する。
「・・・神谷さん。」
「先生はいつだってそうでした!私の気持ちなど完無視で・・・!」
「・・・すみません。」
「その上、大嘘つきで!酷い人です!結局、私を置き去りにして!共に幸せになろうと言ってくれたではありませんか!」
「ごめんなさい。」
「・・・先生を失っちゃったら、私はどうすればいいんですかぁ・・・」
「貴女には必ずいい人が・・・」
「この期に及んでまだ、そんな事を言うのですか!私はもう、先生以外、考えられません!」
「神谷さん・・・。」
「どんなに酷い事を言われようと、酷い仕打ちをされようと・・・私には沖田先生が必要なんです・・・!好きなんです!どうしようもなく!」
そして、セイはまるで、幼子のように声を上げて泣いた。
己の意地など既にどうでもよく、ただ単に、総司の傍にいたかった。
そして、総司が自分の事を必要としているのではなく、自分が総司を必要としていたのだと、セイは泣きながら思った。
総司は自分の胸の中で泣きじゃくるセイに、胸が熱くなりセイを力強く抱きしめた。
「ごめんなさい、神谷さん。私にも貴女が必要なんです。」
そのくらい時間が経っただろうか。
暫くの間、二人はそのままだった。
セイはそっと顔を上げると、総司の唇に己の唇を押し付けた。
一瞬、総司は瞠目すると、勢いよく、セイの体を引き剥がす。
「何を・・・!」
「・・・私にも先生の苦しみをわけてください。お願いします。」
そう静かに言うと、もう一度、口付をした。
総司は堪らず、セイを押し倒すと、舌を絡め合わせた。
何度も角度を変えながら。
何かを考える余裕などなかった。
ただ、互いに唇を貪りあった。
激しいが、優しい口付けにセイは涙が出そうになる。
もう完全に、セイの胸につっかえていたものは取れていた。
唇を離すと、名残惜しそうに銀の糸を引く。
総司はセイを見据え、
「・・・後悔しても知りませんよ。」
とはっきり言った。
その言葉にセイは首を縦に振る。
それを合図に総司はセイの着物の袷を肌蹴さした。
すると、小ぶりだが形のいい胸が姿を現わす。
セイの両手首を布団に縫い付け、総司は優しく、胸の頂に舌を這わせる。
掴んでいた手首を離し、今度は指を絡め合わせると、総司はセイの額にそっと口付る。
瞼、頬、鼻の頂、そして、唇に何度も啄むような口付をした。
「沖田先生?」
総司はセイの唇に人差し指を当てると、
「私たちは、夫婦・・・なのでしょう?セイ?」
その言葉にセイは微笑んで、はいとだけ答えた。
総司はセイの帯と自分の帯を外すと、首筋に舌を這わせ、強く吸い込み、紅い花を咲かせた。
そして、再び、胸の頂に舌を這わせると、片方の手で、残った胸を揉む。
「はっ・・・ん!」
思わずセイは艶声を出す。
既に着物の役目を果たしておらず、袖を通しているだけのものになっていた。
その声に総司は顔を上げて、最後の砦の湯文字を外すと今度はセイの密部に指を持っていく。
既に十分湿っていたそこは、総司の指をすんなり受け入れた。
総司の指が動くたびにセイは艶やかな声を漏らす。
「あ・・・はぁ・・・あん!」
セイの表情が、声があまりも艶かしく、総司は己自身に熱が伝わっていくのが分る。
そして、セイの密部から指を外すと、総司は袖を通していただけの着物を脱ぎ棄てた。
互いに生れたままの姿になると、総司は閉じていた足を強引に開け、足と足の間に割って入った。
総司の少し痩せた体を見てセイは胸が軋むのが分かる。
そっと、総司の胸に手を当てると、心臓の音が伝わってくる。
その音を聞いて、セイは安堵の溜息を吐き、目を閉じた。
生きてる。
まだ、生きてるんだ。
そう、教えてくれるこの音をすごく心地よく感じながら、セイはそっと、総司の唇に自分のそれを押し付けた。
「・・・セイ、いきますよ。」
そう言うと、総司はセイの密部に自分のものをあてがい、ゆっくりと沈めていく。
そして、ゆっくりと律動を始める。
揺さぶる度にセイは艶やかな声を零す。
「・・・っは、あ・・総、司様・・・」
「何ですか?セイ。」
セイは縋りつくように総司の首に抱きつく。
途端、総司の鼓動は高鳴る。
「愛してます・・・。」
その言葉に総司もセイの背中に腕を回し、抱き締めた。
「私も・・・愛してます。」
「・・・ねぇ、セイ?」
総司はそっとセイに問いかけた。
その問いかけにセイは微笑みながら答える。
「何ですか?総司様。」
「本当に後悔しませんか?」
その言葉にセイは眉間にしわを寄せる。
「口説いです。私は総司様さえ、いればそれで・・・」
「・・・そうですね。」
そして、二人は笑いあった。
終
−言い訳−
・・・書ききりました。
取敢えず、後半からはグダグダです(´Д`;)
こんな落ちでいいのかとか思いましたけど・・・
まぁ、ただ単に、貴方の苦しみを私にもわけてください的なセリフを入れれたら満足だったりww、
ここまで、付き合っていただき、ありがとうございました。